唇が、覚えてるから

こんなの、他人が聞いたら怪奇現象だと騒ぐに決まってる。

家族に言ったら、即病院に連れて行かれるはず。

説明のつかない、普通ではあり得ないこの状況を分かってもらうことすら難しいのに。


「迷惑だなんて思ってないよ。それより琴羽……大丈夫?」


それを一生懸命分かろうとしてくれる真理の気持ちが嬉しかった。

………ありがとう、真理。


昨日のことで本当は大丈夫じゃないけど、これ以上心配をかけたくなくて、


「うん」


そう頷いた。



今日は土曜日だから実習はお休み。

真理が用意してくれた朝食を口へ運ぶ。


食欲はないけど、せっかく用意してくれたんだから全く手をつけないのも悪いと思って、パンを小さくちぎって無理して飲み込んだ。
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