唇が、覚えてるから
「担当患者さんの死って……辛いね」
そう言って真理の手が止まる。
中山さんが亡くなった日の夜、私は一人泣いた。
祐樹の前で泣けなくて、帰ってきた途端堰が切れたように。
一緒に笑いあった時間、中山さんの命が輝いていた時を知っているから。
きっと、祐樹のお母さんじゃなくてもこの感情は変わらなかったはず。
「やっぱり違うと思う」
「……ん?」
私はどこかぼんやりした頭で真理を見た。
「人の死に慣れる、なんて。誰かが大切に思っている人の死を、多くの中の一つだなんて思っちゃいけないよね」
「………うん…」
「その時くらいだけだから、家族の人の思いに寄り添える瞬間は。……祐樹君のこと聞いて、想いってもの、痛感した……」
嬉しかった。
祐樹の想いが伝わってくれて。
祐樹……
祐樹の想いはちゃんと誰かに伝わっているよ。