唇が、覚えてるから

「ここんとこ雨多くて参っちゃうよ。せっかくの休みなのに洗濯物乾かないじゃん」


真理は唇を尖らせながら、窓の外に干してある洗濯物を取り込みに行く。

洗濯物は、大きく風に揺れていた。



───俺、雨男なんだ。


頭の中で、そんな声がリフレインした。




雨……。


………ゆう……き?



「祐樹っ……!!!!」



──ガタッ!

私は叫ぶと弾かれたように立ち上がった。



ダメッ!

この雨が祐樹を連れていっちゃう───



「琴羽っ……!?」


そして、衝動的に走り出していた。



『俺、もう行かないと』



お願い

連れて行かないで!!



病院へ向かうに連れ雨は激しさを増して、それは私の不安を加速させた。

傘なんか全く役に立たなかった。

9月の冷たい雨が、体の熱を奪っていく。
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