唇が、覚えてるから

体中が震え出す。

その震えは、寒いのか、これから起こることに怯えているのか、そんなのもうわかんない。

地面に溜まる水を蹴りながら、水しぶきを浴びながら、私はただひたすらに走った。



全身ずぶ濡れになって病院へ着くと。


「あなたどうしたの!?」


誰からも驚いた視線が刺さったけれど、そんなのどうでも良かった。

歩き慣れた外科病棟。 

祐樹の病室だけを目掛けて突き進んだ。


「……っ」


そこで初めて失速した。


……全開になった扉。

慌ただしく出入りする医師や看護師。


私は瞬時に察した。




───その時が来たんだと。
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