唇が、覚えてるから
「琴羽ちゃん……」
そんな中、一人の男の子が声をかけてきた。
一瞬誰だかわからなかったけれど、すぐに記憶の糸がつながる。
「……海翔……君……?」
合コンで会ったときは大きい黒目が印象的だったのに、今日の彼はずいぶん違った。
どれだけ泣いたんだろうと思わせる瞳に腫れた瞼は、まるで別人のようだった。
……祐樹と海翔君は、親友だったのかもしれない。
会うのは合コン以来だし、私もその先をどう繋げばいいか迷った。
……だって……
あんな非現実的な話を聞かせて……ねぇ…?
海翔君は、ここから見える祐樹の遺影を、しばし放心状態で眺める。
「祐樹、好きな子いたんだ……」
その姿勢を崩さないまま、静かにそう口を開いた。
ドクンドクン……。
胸の奥がざわつく。
祐樹に……好きな子……。