唇が、覚えてるから
無意識に、お焼香を続けている人の列に目を向けた。
祐樹と同じ制服を身にまとった大勢の樟大附の女の子たち。
うずくまって泣きじゃくっているショートカットの女の子。
隣の女の子に肩を抱かれながらお焼香をする茶髪の女の子。
立っているのがやっとの小柄な女の子……。
探し始めたらきりがないけど。
……あの中に、祐樹の彼女がいるの……?
私は事故後の祐樹しか知らない。
だから、私が知らないことは沢山あって当たり前。
祐樹くらいの人、元々彼女がいない方が不思議。
『好きだ』
そう言ってくれたけど、祐樹が元気だった現実の世界では。
……いたんだよね……ちゃんと彼女が……。
こみあげてくるものを我慢するように、グッと歯を食いしばった。
遺影を見つめたまま、海翔君が呟く。
「事故に遭う少し前だった。好きな子が出来た…って、すごく興奮して俺に報告してきたんだ」