唇が、覚えてるから
「信じて……くれるの……?」
まず、誰も信じないだろう話を、海翔君は信じてくれるの……?
目を見開く私に、海翔君は遺影を見ながら目を細めた。
「ただ、アイツらしいなって……。後悔って言葉がすごく嫌いな奴だったから。自分がしたいと思ったことは、必ず通す奴だった。出来ないと言う前に、必ず挑戦してた……」
……いつだって、祐樹は前向きだったんだね……。
私の知ってる祐樹と、なにも変わらない……。
「琴羽ちゃんに声を掛けてみる……それが祐樹が最後に口にした望みだった……。きっと、琴羽ちゃんに声掛けなきゃ死んでも死にきれなかったんだろう。だから、そんな不可思議なこともないとは言い切れないって思ったんだ」
海翔君はゆっくり私に目を戻した。
私は頷く。
「私も……。
初めは信じられなかったけど……、本当のことを知った時、怖いなんて、一瞬だって思わなかった」
ただ、祐樹に会えて良かった……って。
「こんな短い期間で私、祐樹に恋したんだから……」
間違いなく、これは恋だった。
祐樹と過ごした時間は、優しく、温かかった。
今までの、どの時間よりも愛おしい……。
これからも、祐樹を思い返す時間は、きっと優しい気持ちになれるだろう。