唇が、覚えてるから

泣きながら微笑んだ私を見る海翔君の顔が、更にクシャクシャになる。


「最後にアイツ、幸せだったと思うよ。

……けど……どうせなら……
ちゃんとした形で……出会わせてやりたかった……っ」


それっきり、海翔君は話せなくなった。


「うっ……あぁっ……」


傘も地面に落とし、腕で涙をぬぐう海翔君に智久君が近寄り胸を貸す。

項垂れるようにそのまま頭を付けて。

人目もはばからずに声を上げて、泣いた。



親、友達、そして恋人。

"誰か"は、それぞれにとって大切な人で。

その存在は、それぞれ違うかもしれないけれど。

無駄な命なんてひとつもない。


今日だって、祐樹の為にこんなに沢山の人が悲しみ、涙を流している。



でも……。

祐樹の為に泣いてくれる人がいればいるほど、私の悲しみは少しだけ軽くなる気がするの。


……分かち合うって、こういうことなんだ。
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