唇が、覚えてるから



今日もここには子供たちが溢れている。

帰りたいと泣いてる子。

待ち時間に飽きて、駄々をこねてる子。


……私もそうだったな。



「もうちょっとだよ~頑張ろうね~」


ウサギの指人形を使って、小さな女の子を励ます。

この子たちが病院が嫌だって気持ち、私はよく知っているから。

少しでも病院に来るのが苦痛と感じないように。

与えられた仕事の合間を縫って、極力長い待ち時間退屈している子の相手をしている。

指人形でこうして話しかけたり、作ってきた折り紙をあげたり。

実習生の私には、まだそんなことしか出来ないけれど。

相手の気持ちに寄り添う。

それだけは忘れずにいたいから。

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