唇が、覚えてるから
「あ、すみませんっ……」
……お化け、なんて。
赤ちゃんを怖がらせちゃったかも。
うわぁ……どうしよう……。
「ぷぷっ」
すると柏原さんが吹き出した。
「相変わらず面白いね、五十嵐さんて」
……あ。
……よかった。
失言でまた怒られるかと思った。
柏原さんはうっすら涙まで浮かべてる。
笑いは治まるどころか、そのうち背中を丸めてお腹まで抱えだした。
「アハハハ。お腹痛ーい」
「えっ、大丈夫ですか!?」
もう、私ってば何やってるんだろう。
絶対安静の患者さんに刺激を与えるようなこと。
「大丈夫。ほら、赤ちゃん元気に動いてるし。きっと五十嵐さんの声に反応したのね」
柏原さんに取られた私の手は、膨らみのあるお腹の上へ──…