唇が、覚えてるから

外来はとても忙しそうだった。

大学病院だから、それは仕方ない。

私が小さい頃通院していたのも大学病院。

待ち時間が長くてとても退屈したのを覚えている。


そんなとき、よく看護師さんが話し相手になってくれたっけ。

忙しかっただろうに、迷惑かけちゃったなぁ……。


用事を終え、昔の自分を懐かしく思いながら外来の様子を眺めていると。


「ちょっと、そこのあなた!」


一人の看護師さんにすごい勢いで腕を掴まれた。


「えっ……」

「この患者さん、2番へ案内しといて!」


クリアファイルに挟まれた書類とともにそんな言葉を残すと、戸惑う私を置き、あわただしくカーテンの向こうへ消えて行く。
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