唇が、覚えてるから

「お姉ちゃんいくつ?」


小林さんは、ベッドへ座ると退屈そうに話しかけてきた。


「17歳です」

「17!?今はそんな若い看護師がいるのか」

「実習生なんです」


そう言うと、


「なんだ、実習生か。俺もなめられたもんだな」


ものすごく嫌な顔をされた。


「……すみません。すぐ変わりますので……」


柏原さんみたいな人ばかりじゃない。

実習生に対応されるのを快く思わない患者さんも中にはいる。

気持ちは分かるし、申し訳なく思った。


「ちょっとここ座りなよ」


小林さんは座っているベッドの隣を叩いた。


「え、でも……」

「患者の話し相手も仕事のうちだろ?」

「……はい」


断れず、私は座った。


けれど……なにかがおかしい。

話し相手と言ったのに、無言。
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