唇が、覚えてるから

妙な空気が流れる中、じりじりとその体が詰め寄られ。

私と小林さんとの間に隙間がなくなったと思った瞬間、


「……っ!」


体中に鳥肌が立った。

……小林さんが私の太ももの上に手を置いてきたのだ。


「……俺さぁ、末期ガンなんだって。もう3ヶ月も入院しっぱなしで楽しいことなんてひとつもねーんだよ」

「あっ…あの…」

「そんな俺がこのくらいしたって、バチは当たらないだろ」


そう言いながら、強弱をつけて手を動かす。


……どうしよう。

恐怖で心臓がバクバクし始める。


今までの実習中にも、おじいちゃんに軽くおしりをタッチされるなんてことはあった。

平気って言ったら嘘になるけど、それは悪意もなく笑って許せる範囲だった。
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