唇が、覚えてるから

……っ。

その間をまさぐるように指先が動いていく。


これはれっきとした痴漢行為。犯罪だ。

……やだ。気持ち悪い。

これ以上は無理、耐えられない……。


「……っ!」


今度こそ声を上げようとしたのに、本当の恐怖に陥った時は、声を出すことも逃げることも出来ないと知った。

……体が固まってしまったのだ。


どうしよう!!誰か助けてっ───


心の中で叫んだそのときだった。


「おっさん。現行犯で警察につき出してやろうか」


そんな声と共に、黒い影が私達に割って入った。

同時にピタッと手の動きが止まる。


「それとも俺にやられた方がいい?」


冷酷でゾクッとする様な声。

スッと手が離れ、咄嗟に見上げると。
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