唇が、覚えてるから
「小林さーん、お待たせしちゃってすみません」
そのとき中扉が開き、さっきの看護師さんが顔を出した。
『あなたもありがとう』そう言うと、私の手からファイルを抜きとる。
小林さんは何事もなかったように検査室へ入って行った。
「アンタもさぁ、何触らせてんの?」
放心状態で突っ立つ私に届いたのは、彼の冷やかな声。
「アンタの看護って、そういうこと?」
……っ。
我に返って、俯いた。
「……助けてなんて言ってませんけど」
ぶっきら棒に放つ。
素人にそんなこと言われたくない。
「へー、じゃああのまま傍観してても良かった?」
「そうですねっ、放っておいてくれてよかったですっ……」