唇が、覚えてるから
私達は、桜杜(サクラモリ)高校衛生看護科の3年で、10日ほど前からこの"樟瑛(ショウエイ)大学病院"で看護実習をしているのだ。
「だから桜杜の生徒は……って言われるのよ」
心底嫌そうな顔をする稲森先輩。
実習は、桜杜高校と嶺西(リョウサイ)学園看護科の合同実習。
嶺西学園は学力のレベルも高く、何かと比べられる。
実習生同士も、どうも仲良くなれない。
……というか、向こうが仲良くしてくれない。
「私に恥をかかせないで頂戴ね」
稲森先輩は桜杜の卒業生だから、後輩の私達には特に厳しいのだ。
しかも、現在私の直属の指導者でもある。
「お、お先に行ってます!」
その小言が本格的になる前、着替え終わった私はロッカールームからコソコソ逃げ出した。