唇が、覚えてるから
昨日の口の悪いイケメンだとか。
憎たらしいって思ったこととか。
全部抜きで。
今はその声と、その手だけが救いで。
やっとの想いで声を出す。
「……助けてくれて……ありがとう」
「初めっからそう言えばいいのに」
涙目で顔をあげると
「っ、」
彼の顔が真近にあってドクンッと胸が高鳴った。
初めて会った時にドキッとした、さらさらの長い前髪の隙間から覗く涼しげな眼元。
それがすごく至近距離にあって。
胸の奥がキュッと狭まり、息が止まりそうになる。
「でも、どうしてここに……」
直視出来なくて、不自然に目を反らしながら言った。
「カーテン開いてたし」
「……あ」
恥ずかしい。
他の患者さん達にも見られていたかもしれない。
その中で、助けてくれた彼が救世主に見えた。