唇が、覚えてるから

長い廊下を歩く。

病院の匂いは嫌いじゃない。

むしろ好き。

小さい頃、喘息持ちで病院通いをしていたから、なんとなくこの匂いを嗅ぐと落ち着く。


私の名前は五十嵐 琴羽(イガラシ コトハ)

看護師を目指したのは、自分に闘病経験があるから。


地元は県の外れの田舎町。

県の中心部にある桜杜高校に進学するには寮生活をするしかなかった。

親元を離れて2年。

淋しいと思う日もあるけど、そんな時はお母さんに電話1本して眠れば、朝にはいつもの私に戻るんだ。

滅多に落ち込まない、元気だけが取り柄の私だから。


家族構成はお父さん、お母さん、お兄ちゃん。

小学校3年生までは東京で暮らしていた。

私の持病であった喘息が悪化したことが原因で、お父さんの実家のある町に引っ越しをした。
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