唇が、覚えてるから

「負い目……感じてんの?」

「……ないって言ったら嘘になる。お兄ちゃん、彼女と別れなきゃいけなくなったし、お母さんだって、大親友と離れ離れになっちゃったし、お父さんだって、職場変わったし…」


いつもの明るさが薄れて行く家族に、小さな胸を痛めていたんだ。

ベッドの中で、一人泣いた夜もあった。


「でも、琴羽だって、淋しかったよな?」

「……え?」

「友達と離れるの、辛かったよな?」


見上げた先に、優しい祐樹の瞳が映った。


“琴羽は何も心配しなくていい”

“これできっと体も良くなるから”

“よかったわね”


みんなそう言ってくれた。

私のせいでみんなが犠牲になるのに、転校するのが淋しいなんて言えるわけなかった。


でも。

本当は。


……私だって淋しかったんだ。
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