唇が、覚えてるから

あのときも。

今だって。

誰にも言えなかったのに。


「エライエライ」


祐樹が私の頭の上に手を乗せて、くしゃくしゃと髪を撫でた。


……祐樹だけは気づいてくれた。

……うれしい。


撫でられてる頭がすごく温かくて。


「……ゆう……き…」


涙腺なんて、ちょっとのことじゃ崩壊しないのに。

瞳に映るのは、滲んだ祐樹の顔。


「でも、そのおかげでね、私治ったの。だから、生まれ変わったその命で私が出来ることは、やっぱりこの仕事って思ったんだ」


ズズッと鼻をすすり、私がどうして看護師を目指したのかを話した。


同級生にもこんな理由の子は沢山いる。

理由にしたらベタ。

祐樹は笑うかなって思ったけど。
< 54 / 266 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop