唇が、覚えてるから
あのときも。
今だって。
誰にも言えなかったのに。
「エライエライ」
祐樹が私の頭の上に手を乗せて、くしゃくしゃと髪を撫でた。
……祐樹だけは気づいてくれた。
……うれしい。
撫でられてる頭がすごく温かくて。
「……ゆう……き…」
涙腺なんて、ちょっとのことじゃ崩壊しないのに。
瞳に映るのは、滲んだ祐樹の顔。
「でも、そのおかげでね、私治ったの。だから、生まれ変わったその命で私が出来ることは、やっぱりこの仕事って思ったんだ」
ズズッと鼻をすすり、私がどうして看護師を目指したのかを話した。
同級生にもこんな理由の子は沢山いる。
理由にしたらベタ。
祐樹は笑うかなって思ったけど。