唇が、覚えてるから

「頑張れ。琴羽なら出来る」


笑いもしないで、そう言ってくれた。


こんな言葉。

何度も何度も聞いたはずなのに。

どうしてこんなにも胸に響くんだろう。


……そんなの簡単。


このとき。もう私は。

……祐樹に恋をしていたから。


「……ありがとう」


イジワルなことも言うけれど、今みたいな真っ直ぐな言葉をかけてくれる彼にいつの間にか惹かれていたんだ。


吹く風は涼しいのに、体温が上昇していくのが分かる。


「……あ、自分のことばっかり話しちゃった。祐樹は?祐樹の夢も聞きたい」


気持ちを悟られないように、咄嗟に祐樹に振ると、


「俺の夢?俺はな……」


明るく話し出した次の瞬間。

言葉が途切れて、祐樹の顔が強張ったように見えた。


……ん…?


「ゆう…き……?」


違和感を覚えて、言葉に詰まる。


「……俺の夢なんて、聞いてもしょうがねーよ」


祐樹は、さっきまでとは違って急に落ち着きをなくした。

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