唇が、覚えてるから
尊い場所
その着信は、産婦人科病棟からだった。
『五十嵐さん今どこっ!』
通話を押すと、あわてたような稲森先輩の声が飛んできた。
その音量に驚いて、スマホを耳から少し外す。
『聞いてる!?』
「…はいっ……病院を出たところですけど……」
『柏原さんの陣痛が急に始まっちゃったのよ。まだ少し早いけど、このままお産にするそうよ』
───!!!!
「もう出産するんですか!?」
思わずベンチから飛び上がった。
『ええ。だから、柏原さんが出来ればあなたについていてもらえないかって言ってるの』
「私……に?」
『生のお産はとても勉強になるわ。あなたが担当している患者さんでしょ?』
「私が……お産に立ち会うんですか……?」
ドクン、と強い鼓動が胸を叩いた。
隣にいた祐樹も、心配そうに立ち上がる。