唇が、覚えてるから
『まあ……実習時間外だから強制ではないわ。あなたが決めなさい』
「……」
お産を見るなんて初めての経験。
怖いし……不安。
そんな私が行ったとして、何が出来る……?
救いを求めるように見上げた先には、黙って頷く祐樹の姿があった。
───行ってこい。
そう言われてる気がした。
『五十嵐さん、どうするの!?』
電話越しには決断を急かす声。
「いっ、行きますっ!」
私は祐樹の目を見つめながら力強く返事をすると、電話を切った。