唇が、覚えてるから

───午後11時25分。

初産にしてはスピード出産で、柏原さんは無事女の子を出産した。


赤ちゃんの体重1548グラム。

すぐに併設されているNICUに運ばれたけど、低体重の他は特に問題もなく、柏原さんの容体も落ち着いていた。


お産はもう……

言葉では言い表せないほど感動的なものだった。


腰をさすったり、汗を拭いたり。

余裕がある時は話相手になったり。

……けれど。

極期を迎えるころには、私は何も出来なかった。


苦しそうに声をあげる柏原さんに、私はただ心の中で祈り続けるだけだった。

最後柏原さんは、ギリギリに飛び込んできた旦那さんに手を握ってもらい、2人で新しい命を誕生させた。
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