唇が、覚えてるから

毎日失われていく命がある中で。

こうして新しい命も確実に誕生している。


生と死。


その両方が隣合わせにあるこの場所は。

最も尊い場所。


私は、感動して涙が止まらなかった。



「遅いからタクシーで帰りなさい」

「えっ……」

「出世払いでいいわよ」


笑いながら、稲森先輩にお金を握らされた。


……そんな優しさにも、涙が出そうになった。
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