唇が、覚えてるから

声は弱々しいのに、矢部さんは睨みをきかせて私が近寄ることを拒んだ。

それに屈せず、私は彼女の前に回り込む。


出来の悪い私と同じ実習生であることは、矢部さんのプライドにも触っていたと思う。

そんなプライドも、今はもうズタズタかもしれない。


すぐいつのもの様に視線を逸らされたけど、私はじっと矢部さんの目を見つめた。


その時。


「私、看護師になるのやめる」

「ちょ……矢部さん!?」


突然そんなことを言い出す矢部さんに私は慌てた。

たった一度のミスで、そこまで言うなんて、嘘だよね?


そしたら私なんて、とっくに諦めてなきゃおかしいもん。

でも、目は真剣だ。
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