唇が、覚えてるから

……確かに。

それを言われたら大正解。

励ましているつもりなのに、私のバカさ加減を披露しているだけな気もする。


「……っていうかあなたに言われても、全然説得力無いし」


あぁ、撃沈。

私に矢部さんを諭すなんて、やっぱり100年早いわ……。


ガクッとうなだれた時、


「慢心……だったの……」


勢いをなくして矢部さんは言った。


「えっ…」


フェンスの向こうを真っ直ぐ見つめる矢部さんの顔をじっと見る。


「いちいち先輩に言われなくても一人で出来るって思ってた」

「……矢部さん…?」


一度、下を向いて息を吐いた後、すぐにキリッとしたいつもの表情に戻る。


「他の科で実習してるみんなが、今日は何をしたかがすごく気になるの。領西の子たちは、誰もが人より一歩でもリードしたいって思ってる」

「……」

「今日はこんなことをした、こんなことまで任された……寮ではそんな話ばかり」

「……そう……なんだ」
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