唇が、覚えてるから

***


「もう落ち着いたから大丈夫よ」


中山さんは、その通り落ち着いた顔で眠りについていた。

こうしていると、さっきの姿が嘘みたいに穏やかな顔をした綺麗な人なのに。


「五十嵐さん、着替えてきなさい」

「……はい」


こんな経験は初めてで、さすがにショックが隠せない。

私はまだ足の震えが止まらなかった。


「最近、幻覚や幻聴の症状も出てきているのよ……」

「えっ……」


着替え終わってナースステーションへ戻った私に、衝撃的な事実が告げられた。


目の前には、今までの中山さんの病状やこれまでの看護がつづられたカルテ。

まだショックが隠せない私に、中山さんの現状を伝えてくれる。
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