唇が、覚えてるから

「病気が進行しているってことですか?」

「それとはまた、少し違うのよ。……中山さん、息子さんがいたんだけど事故でね……」


橋本さんが顔を曇らせた。


「そう……なんですか…」


……亡くなったんだ……。


「旦那さんの方に引き取られた息子さんだったんだけど、元気なころはお見舞いにもよく来てくれてたわ」

「じゃあ……お見舞いに来られなくなってから、ああなってしまったんですか?」


それが原因で、病状が悪化していったの……?

そうだったら悲しすぎる。


私の問いかけに、橋本さんは首を横に振った。


「確かにそのころから変わったけど、ちょっと事情が違うのよ」


そして困ったように眉根を下げた。

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