唇が、覚えてるから
「おはよう」
「……」
声を掛けてみたけれど、無言のままそっぽを向かれた。
……これはいつものこと。
矢部さんは頭もよくて仕事の飲み込みも早い。
だから、仕事がトロくて元気だけで持っているような私を良く思ってないようだ。
さて……と。
仕事仕事!
気を取り直して、早速朝の作業に取りかかる。
私に与えられているのは備品の補充。
毎日やっていることだから、これはさすがに手際もよくなってきた。
ガーゼはここ。消毒液はここ。
調子良く作業していると
「五十嵐さんっ!!」
大声で呼ばれた。それは稲森先輩の声。
私は固まる。
……何かミスした?
呼ばれるだけで何かをやらかしたかと思うほど、私は注意ばかりされているから。