唇が、覚えてるから
「……うん?」
さっきから中山さんの息子さんの話ばかりして、もしかして、妬いたとか?
……まあ、妬く筋合いはないか……。
それでも、なんだか心がくすぐったい。
嬉しさを抑えるように、下唇を少し噛む。
でも……。
こんな話してても。
その息子さんはもう亡くなってしまっている。
現実に帰ると、悲しくなる。
所詮私は、架空の話に付き合っているわけで。
楽しさの後には決まってさみしさが襲うから……。
「そうだ、この間の続き」
沈みかけた気持ちをとどまらせて、また顔を上げた。
思い出したんだ。
柏原さんの出産で途切れてしまった会話のこと。
「ん?」
祐樹は軽くほほを上げて私に向き直る。
「祐樹の夢……。患者さんの出産で、まだ聞いてなかったから」
「あ……」