唇が、覚えてるから

祐樹は大きく開いた膝の上に手を乗せたまま、じっと口を噤んでいる。

時折少し開いては、また閉じて……


言えない事情でもあるんだろうか……と思ったとき。


「…………医者」


えっ……

かすかに聞こえた声に、私の目は輝いた。


「お医者さん!?」


今、医者って言ったよね?

間違いないよね!?

ということは、やっぱり祐樹は医学部コースの生徒……?


なんだぁ。

祐樹も私とおなじ医療従事者を目指していたなんて。

心が弾んだ瞬間。


「……に、なりたかった」


祐樹が続けた言葉に、私の顔から笑みが消えた。


……え?

将来の話にしては不釣り合いな結びに、首をかしげる。


「なりた……かった……?」


浮かれ気分も一気に吹き飛んだ。


「それって……諦めちゃったってこと?」


問いかけに、祐樹は首を縦におろした。


「どうして!?」


私はたまらずその肩を掴む。
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