ルーツ
それからも毎日花屋の前で僕はあいさつを彼女と交わしたんだが
心は晴れなかった。




ある日、いつものように小説を読んでいる彼女が
本を置いてそこを離れた。



ハードカバーのその本をじっと見つめる。



その時、僕の心に魔がさした。


なんでそんなことをしてしまったんだろう。
今でも後悔している。




僕はその本をかばんに押し込み、走って逃げた。
物陰から店をのぞくと、いつまでも本を探す彼女の姿が見えていた。




僕はその夜いつまでも眠れず、ずっと盗んだ本を見ていた。



嫉妬に駆られ、彼女の大切な本を盗むなんて、とんでもないことをした。
激しく後悔したよ。



そして、本を返して謝ろうと心に決めたんだ。


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