ルーツ
徹は語り終わると、一息ついて煙草に火をつけた。


「もしかしてこの本がそうなの?」


裕未は徹が大切にしている本を指さす。


「そうだよ。悪いことしたなあ」



徹はため息をついてその本を手に取る。
いとおしそうにその本を見つめる徹。


「でも、住んでいる所もわからないし連絡先も知らないし
探しようがないよ、あきらめるしかないな…」


「そうね…」


裕未はそう言うと徹を見つめる。



私が知らない、夫の高校生時代を
彩った彼女の存在。


本当に大切な思い出なんだろうと裕未は思う。



いつもの徹とは違う一面を見た裕未は、
愛する夫のことをまた一つ知ることができて、少しうれしかった。

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