ルーツ
家に帰り、熱い紅茶を裕未に入れてあげる徹。


カップ両手に持ち温かい紅茶を少し口に含むと
少し落ち着いた裕未はソファーに座り、クッションに深く顔をうずめた。



「変質者がエレベーターに出たことは管理事務所に
伝えておいた。警察と協力して、これから警備を強化してくれるそうだ」



徹が言う言葉に裕未は耳を貸そうともしない。
クッションにうずめたまま、同じ言葉を繰り返す。



「もういや…引っ越ししたい…もういや…」





ため息をついた徹は、ゆっくりと裕未のそばに寄り
そっと頭をなでて諭すように裕未に言う。



「ごめんな、俺が稼ぎ悪いから中古マンションにしか住めなくて。
でも、絶対金貯めて一戸建てに住もうな!

俺、残業もたくさんして頑張るよ!」




その言葉に裕未は笑顔になる。



「ありがとう…でも無理しないでね」


やさしい徹の言葉に少しほっとした裕未ではあったが、
これからもしばらくはここで暮さなければいけないと思うと
うんざりした気持ちになった。


< 19 / 377 >

この作品をシェア

pagetop