君に捧げる夏
優しい日常
彼女は空を見上げていた。
俺もつられて空を見上げてみる―― だけど、そこにはなにもない。
あるのは、雲と青空だけ。
「空を飛べたら、気持ちいいんだろうな」
「そうか? 俺は、空なんて飛びたくないな」
驚く様子もなく、彼女は俺に視線を移す。
さらりと長く透き通っているような蒼い髪がなびいた。
そして、髪と同じぐらい蒼い大きな瞳がじっと俺を見つめる。
きっと答えを待っているのだろう。
「俺にとっては、空は悲しみの象徴だからな」
なんとなく空は悲しさに満ちているような気がした。
彼女はやさしく笑うと、また空に視線を移す。
そんな彼女の顔を俺は見つめる。
整ったその顔……きっと男子にもてるんだろうな。
あ、でも口調が男っぽいし無理かもな。
「お前、今失礼なこと考えていなかったか?」
「いいえ別にい、そういえば俺おつかい頼まれてたんだっけえ」
うそだ、絶対うそだ、と言ってくる彼女を無視して俺は走り出す。
じんわりとにじむ汗が、妙に気持ち悪かった。