君に捧げる夏
「なぁ、クロ。そろそろ学校に向かわないとやばいんじゃないのか?」

美羽が俺達の先輩でもある、クロ(あだ名)に話しかける。

彼もまた、本が好きで多分……美羽と同じぐらい本を読んでいる。

「……そうですね」

腕時計を確認して、短くそう答えた。

年下にも同級生にも、年上にも変わらず敬語を使うのが個性的。

まぁ、それでもこの姉妹(特に姉)の所為でほとんどそんな個性、認められてないのだが。



「お前ら慰めんかゴルァーッ!!!!」

「……竜也、あいつを止めてくれ」

美羽が暴れだした美緒を見て、俺にそう言った。

いや、無理だって、あいつ俺よりも喧嘩強いんだよ。

「まぁまぁ、落ち着いてください」

「クロ坊っ、もうどうでもいいからテメェーちょっと俺のサンドバックなれやっ!!」

ばしばしと叩かれても、まったく文句を言わないクロはやっぱり凄い。

いや、もしかして……痛みを感じない、とか?

「ほらほら、早く行かないと担任に怒られるから」

「ふんっ、担任なんて恐ろしくもなんでもないやい!!」

「分かった分かった。さっさと行こうな」

「美羽ちょっと先行かないでよぉー、私が悪かったよー」

すたすたと先に歩く美羽を追いかけるような形で、美緒が走り出す。

そんな姉妹を見ながら、俺はゆっくりと歩き出した。
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