彼氏と彼女の抱く絶対的な秘密。
「でも、最後に『この物語はフィクションです』って、忘れんなよ?」
聞き覚えのある声。
呼ばれたらすぐ振り返る声。
大好きな声。
「……あゆくん」
矢代さんがそういう。
正直、矢代さんより先に亜優の名前を呼べなかったのは悔しいけど、そんなんどうでもよかった。
ただひたすらに、衝撃と困惑だけがあたしを支配した。
「矢代、いい加減にしろよ。勝手に人の名前使って、その名前汚すなよ。ただ友紀を苦しめたり困惑させるために、俺はともかく友紀の友達にまで迷惑かけんじゃねェよ」
亜優が現れた事で、矢代さんが「あ、えと、う…あ、ゆくん…」としどろもどろになっている。
「それにな、矢代」
矢代さんに向かって、亜優が真剣な目で言う。
「たとえ俺、友紀にフラれたりしても、お前と付き合う気はないから。それに、お前がいた通り、俺や友紀が変わったとしても、俺は友紀の事を好きでいるから」
「あ…う…」と矢代さんは困り果てた顔をする。
そしてもう溢れだしたように涙を流し
「あゆくんのバカ!!どうして瑛美の気持ち分かってくんないの?瑛美の方がっ、瑛美の方が橘さんよりずっとあゆくんの事好きだよ?ずっとずっと、どんなあゆくんでも愛していけるよ?なのにどうして?なんであゆくんは瑛美の事好きになってくれないの!?」
「…あのな、矢代。たとえお前が友紀より俺を好きでいてくれても、俺は友紀が好きなんだよ。どっちの愛情が大きいかどうかじゃなくて、俺は友紀が好きだから、友紀と付き合ってるんだ。それは分かってほしい」
「……あゆくんの、ばかぁ」
「でも、誰かに想ってもらうっていうのは、すごい嬉しい。ありがとうな、矢代」
「…あゆくんのっ、バカ!!」
亜優に輝かしい笑顔を向けられた矢代さんは、逃げ出すように去っていった。
「え?なんで俺、バカって言われないといけないの?」
頭にハテナマークを浮かべる亜優。
『中途半端な優しさほど、もどかしいものはないよ?亜優』
あたしは矢代さんに同感する。
最後にあんなこと言われたら
嫌いになんてなれない。
最後にあんな笑顔見せられたら
嫌いになんてなれない。
諦められないもん。
ずっと終わりのない恋をするだけになってしまう。
『最後のやつ、いらなかったかもね』
「なっ、なんでだよ」
『女の子の秘密』
あたしはなんだか、少しだけだけど、矢代さんと仲良くできるような気もした。
さっきの矢代さんが、自分に似ているように思えたからかなぁ。
『…じゃぁ、亜優君?』
「どうしましたか、友紀さん」
『お話……聞かせて、くれない?』
「もちろん」
亜優はそう言って笑った。