彼氏と彼女の抱く絶対的な秘密。
扉を乱暴に開けて、靴を脱ぎ散らかす。
そのままバタバタと自分の部屋に入った。
「友紀?友紀、帰って来たの?」
お母さんの声が聞こえてきたけど、自分の中でかき消す。
さっきから、ずっと。
ずっと、頬を濡らし続ける雫を。
やっとその存在を、自分で認める。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、』
息苦しい。
心臓がどくどくどくどくとうるさい。
前、理科の授業で…
鼓動には数が限られていると、先生が教えてくれた。
猫や犬は鼓動が速いから、その分すぐに亡くなるらしい。
悔しく思った。
今、亜優のせいで、矢代さんのせいで、二人のせいで。
こんなにも、鼓動の無駄遣いをしていると思うと腹が立った。
今頃、あの二人はどうしてるのだろうか?
亜優に気はないのかもしれない。
矢代さんは亜優を完全に狙っているだろう。
そんな矢代さんから、無理やり抱きつかれていただけかもしれない。
でもあたしはそんなことじゃなくて。
一番気にしているのは、亜優が矢代さんを呼んだという事。
どうして?
あたしが遅くなったから?
だから矢代さんを呼んで、一緒に帰ろうとか思ってたの?
どうして矢代さんを呼んだの?
そして、なんで彼女がいないなんて言ったの?
「橘さぁんっ、落ち着いてくださいよっ!あゆくんが、困ってるじゃないですか。」
困らせてるのはあたし。
落ち着いてないのもあたし。
ダメ?
だってあたし、…
だってあたし、それほどに亜優の事が
『矢代さんなんかより!!あんな女なんかよりっ…、あたし…!!亜優の事っ…好きなのに…………!!!』
もう女心とか。
今朝の寝坊とか。
そんなのどうだっていいよ。
ねぇ、亜優。
言ってよ。
なんか勘違いしてるような、あんな浮かれた女に
堂々と言ってよ。
あたしが彼女だって。