紙ヒコーキとアオイくん
びっくりして、あたしはそのまま固まってしまう。

その間もあたたかい手が、行ったり来たり、髪をすべった。



「……別に、将来の夢なんてまだない人たくさんいますけど。ていうかないまま大人になる人だって、普通にいると思いますよ」



相変わらず、抑揚はないけれど。

だけど彼からいつもの辛辣な言葉が返ってくると思っていたあたしは、頭を撫でられていることも相まって、見事に硬直していた。


彼には気付かれないように、こくりと唾を飲み込んで。

自分に触れている手の感触を意識ながら、おそるおそる、口を開く。



「じゃ、じゃあ……アオイくんは、将来の夢ってある?」

「え、弁護士」

「あんじゃん!! 立派な夢、あんじゃん!!」



あっさり、迷いなく言葉を返され、あたしはガバリとからだを起こして後ろを振り向いた。

めずらしく驚いたように、アオイくんは目を瞬かせている。



「危ないっすね。アゴにごっつんしたらどうしてくれんですか」

「そのときは素直に謝りますとも!」



勢いよく言葉を返しつつ、あたしは姿勢を正した。

振り向いた瞬間、思いの外彼との距離が近かったことに実は内心ビビってしまった件については、意地でも悟られまい。

そしてあたしがそんな状態なのに、やはり飄々とした顔できちんと正座しているアオイくんに、若干なんとも言えない気持ちになる。


な…何さ……ついこないだまで中坊だったくせにぃ……。
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