紙ヒコーキとアオイくん
「春日先輩?」



耳元で疑問符付きに名前をささやかれ、あたしはハッとする。

取り繕うように、弓矢を握る手に力を込めた。



「あ、えっと、これでいいの?」

「そうです。で、そのまま、右手を矢が頬に触れるところまで、思いきり引いて」

「うん……」



キリ、と慣れない手つきで矢を引いて、的を狙う。

そこでアオイくんが重ねていた手を離して、あたしからすっと距離をとった。



「そう、そのまま、的を狙って……思いきって、矢を放つ」

「………」



アオイくんの高くも低くもない声が、あたしの鼓膜を刺激する。

その声に触発にされたみたいに、気付けば矢をひいた右手を、離していた。


シュッ、と鋭い音をたてて、矢が飛んでいく。

だけどそれは的に届くことなく、芝生の上に落下した。



「ああ、さすがに的には届かなかったか」

「………」




アオイくんが、独り言みたいに呟く。


……そう。矢は、的まで届かなかった。

だけどもそんなことは、対して気にはならなくて。

あたしはたった今矢を放ったばかりの、自分の右手のひらを見つめていた。
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