紙ヒコーキとアオイくん
「そっ、そういえばっ! アオイくんの下の名前って、なに??!」

「……は?」

「だ、だってあたし、聞いたことないしっ! アオイくんも、なんか微妙に隠してるっぽいしっ」



わたわたと自由な左手をせわしなく動かしながら、春日先輩はそう言った。

俺は眉を寄せて、そんな彼女を見上げる。



「……随分今さらな質問を、随分絶妙なタイミングで言うんですね」

「そ、それはどうも……」

「………」



パッと掴んでいた手を放してやると、先輩は逃走まではしないまでもさらに俺から距離をとった。

俺はその場に座ったまま、ふいっと視線をそらす。

……まあ、いつまでも隠し通せるものでもないし。

訊かれたんだから、答えるけど。



「……宇宙の『宙』で、『ソラ』です」

「え?」

「俺の名前。宙っていいます」

「………」



ああ、この沈黙の意味は今までの経験でわかってる。

『アオイ ソラ』だなんて、なんてお気楽な名前だと思ってるんだろ?


若干すさんだ気持ちで春日先輩の顔に視線を戻すと、彼女は予想外にもきょとんとした表情をしていて。

それに俺が言葉を発する前に、ぽつりと、先輩は口を開いた。
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