砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
しかし、ここがドゥルジの限界といえよう。

狂王にとどめを刺すことなど考えもせず、仕留めた獲物を回収するかのように無防備に近寄った。


その瞬間、ドゥルジの身体がガクンと傾いた。

取り巻く周囲が一段下がった印象だ。慌てて王から離れようとしたがもう遅い。足に冷たいものが触れたと同時に絡みつき、まるで蛇のように巻きつきながら身体を這い上がっていく。
 

「何? なんなのっ!? 狂王は死んだんじゃないのぉ!?」


巻きつく水の力に抵抗しつつ、ドゥルジは手を伸ばしてサクルに触れた。

ところが、そこにあるのは人の形に横たわる白いトーブのみ。サクルの身体はどこにもない。


「貴様の愚かな頭でも知っておろう。砂漠の蜃気楼に必要なものは水と光。わずかな月光でも、水を操る私にとって、貴様ひとりの目を欺くくらい造作もないこと」


ドゥルジが視線を前に向けたとき、そこにサクル王が立っていた。


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