砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
名前を使った呪いなど、悪魔の術に通じる者しか知らないこと。

バスィールにも禁じられた悪魔の術に身を投じる者もいるというが、一国の王子であるスワイドがそのような真似をしているとは思いたくない。


(それとも、スワイド王子はそのような禁忌までも犯してしまったの?)


肌を伝うサクルの唇を強く感じたとき、リーンはそれを振り払おうとした。


サクルを呼んではいけない。

助けに来て欲しいなどと思って、サクルをここに呼び戻したら、スワイド王子の思うままにされてしまう。

たとえ愛されていなくても、サクルはリーンのすべてだ。

自分がどんな目に遭わされたとしても、万にひとつ、殺されたとしても。それでも、サクルの助けを呼んではいけない。

リーンの代わりは何人もいるが、狂王の代わりはひとりもいないのだから……。


『リーン、リーン、返事をするのだ。――シーリーン!』


(ダメ……答えてはダメよ。サクルさま、どうか来ないでください。あなたのお力になれなくてごめんなさい。バスィールを手に入れても構わない。でも、どうか、民を苦しめるようなことはなさらないで……。サクルさま……)


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