砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
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「カリム様、陛下はお怒りでしたでしょう」
階下に控えるカリム・カリーに話しかけたのは、この宮殿で正妃の侍女頭となったマルヤムだ。
最初に用意した侍女が全員砂嵐と魔物(ワーディ)の襲撃で死んでしまったため、今は侍女の数が少ない。
まだしばらく砂漠に滞在予定のため、王都より兵士ともども呼び寄せる予定になっていた。
「ああ、困ったものだ。正妃様にもかかわることなのだが……こうなっては“終わる”まで話も聞いてはくださるまいな」
「まあ、正妃様に、なんて……。恐ろしいことにだけはなりませんように」
マルヤムはリーンのことを気に入っていた。
乳母として面倒をみたサクル王が初めて望んだ妻。王の生母であるヒュダは現在神殿を離れることはできない。そんなヒュダに代わってマルヤムが、パスィールの王女を検分にきた、とも言える。
王に相応しくない女であれば、反対してヒュダに報告しよう、そう思っていたのだ。
だが、思いのほかリーンは気立てもよく、何より、サクル王に信服していた。愛情深い点も申し分ない。
サクルは狂王などと呼ばれ、恐れられているが、我欲にまみれた低俗な人物ではない。
「ようやく陛下にもお幸せな時がきて、少しでも長く、楽しい時間を過ごしていただきたいのだけれど……」
「それはどうかな? 追い返す予定の人間は留まったままだし、更に、余計な人間が増えてしまった。だから一刻も早く王都に、とお願いしたのに。砂漠好きな陛下にも困ったものだ」
カリム・アリーは門の外に待つ一団の処遇を考え、深いため息をつくのだった。
「カリム様、陛下はお怒りでしたでしょう」
階下に控えるカリム・カリーに話しかけたのは、この宮殿で正妃の侍女頭となったマルヤムだ。
最初に用意した侍女が全員砂嵐と魔物(ワーディ)の襲撃で死んでしまったため、今は侍女の数が少ない。
まだしばらく砂漠に滞在予定のため、王都より兵士ともども呼び寄せる予定になっていた。
「ああ、困ったものだ。正妃様にもかかわることなのだが……こうなっては“終わる”まで話も聞いてはくださるまいな」
「まあ、正妃様に、なんて……。恐ろしいことにだけはなりませんように」
マルヤムはリーンのことを気に入っていた。
乳母として面倒をみたサクル王が初めて望んだ妻。王の生母であるヒュダは現在神殿を離れることはできない。そんなヒュダに代わってマルヤムが、パスィールの王女を検分にきた、とも言える。
王に相応しくない女であれば、反対してヒュダに報告しよう、そう思っていたのだ。
だが、思いのほかリーンは気立てもよく、何より、サクル王に信服していた。愛情深い点も申し分ない。
サクルは狂王などと呼ばれ、恐れられているが、我欲にまみれた低俗な人物ではない。
「ようやく陛下にもお幸せな時がきて、少しでも長く、楽しい時間を過ごしていただきたいのだけれど……」
「それはどうかな? 追い返す予定の人間は留まったままだし、更に、余計な人間が増えてしまった。だから一刻も早く王都に、とお願いしたのに。砂漠好きな陛下にも困ったものだ」
カリム・アリーは門の外に待つ一団の処遇を考え、深いため息をつくのだった。