砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
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「心配しました。でも、酷い傷でなくてよかった。シャーヒーン、無理をせずにゆっくり休んでくださいね」


リーンはシャーヒーンの手にそっと自分の手の平を重ね、心からの気遣いを口にした。

するとシャーヒーンの透明な瞳がわずかに煌き、


――お心遣い、感謝いたします。


リーンの頭の中で、落ちつきのある優しい声が広がった。



サクルに連れられリーンは砂漠の宮殿に戻ってきた。

オアシスで過ごしたのは、わずかふた晩だけ。サクルはアミーンを送り届け、シャーヒーンの様子を確認して夜には戻る、と言ったが……。

あのオアシスにひとりで待つことなど、リーンには無理だった。


日中も少し移動することになる、と言われたが、それでもリーンはサクルと一緒に行くことを選んだ。

それは、リーンが自らのことで口にした“初めての我がまま”だったかもしれない。


自分はサクルに愛されている。サクルの愛情すべてをリーンが独占してもいいのだ。

誰かと分け合う心配、誰かに譲らなければならない不安、いつも胸に……いや、わざと忘れないようにしてきた。

それが杞憂に過ぎなかったとは、少しも思わなかった。


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