砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
(命を懸けて愛してくださってるなんて。ハーレムにも、侍女以外はわたしだけ、なんて!)


敷地内に建つ怪我人用に作られた別棟から、リーンは侍女を伴い宮殿内に戻った。

悪魔の攻撃によりシャーヒーンは怪我を負ったが、幸い命に別状はなく、どうにか身体を起こせるまで回復していた。

そんな彼女のもとには、暇さえあればアミーンが見舞っていると聞く。

リーンも、オアシスまで駆けつけてくれた彼にお礼を言いたいと思っていた。しかし、リーンの顔を見ると頬を赤らめ離れてしまうので、その機会は今のところ訪れていない。


「陛下、お待たせいたしました」


砂漠の宮殿の中二階、円形の部屋の足を踏み入れつつ、リーンは夫に声をかけた。


「遅い! 私を待たせるとは何ごとだ!」

「申し訳ありません。何度も見舞ったのですがシャーヒーンとは話せなくて……。ようやく身体を起こせるようになったというので、顔を見てきたのです」


サクルは部屋の中央にどっかと腰を下ろし、胡坐をかいていた。上半身は何も身に着けていない。

尊大なサクルの態度にビクビクしていたこともあったが、今はそんなに怖くはなかった。


リーンは床一面に敷き詰められた紺碧のタイルの上をゆっくりと歩く。中央にはシルク織の絨毯があり、その上にいるサクルの隣にちょこんと座った。


「本当に申し訳ありません。……まだ、お怒りですか?」


リーンがもう一度謝ると、サクルは唇を尖らせ膝の上を二回叩いた。


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