砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
カリム・アリーの母がいい例だ。

彼女は王の寵愛を得たというが、正式な妃にはしてもらえなかった。だから、カリム・アリーには王子の称号がないのだという。

リーンがそのことを口にすると、なんと、マルヤムは笑った。


『先王の時代は軍や宮廷に王族の血を持つ実力者が何人もいて、常にどこかで戦が起こっておりました。実力者が王に妃を差し出し、それを断わることができるほど王に力はなく……。陛下は違います! 仮に――という場合でも、長老に処女であったと認めさせれば済むこと。正式な婚姻を待たれたのは、それだけ正妃様を大切にしておられる証でございます』


少しだけ先走ったような気はする。でも、最初の日にすべてを奪おうと思えば奪えたはずだ。

サクルに愛されている。

そう思えばどんな理不尽な要求にでも応えたいと思う。


(侍女たちの前は少し恥ずかしいのだけれど……。せめて、色々なことはふたりきりのときにしてくだされば)


少し前にサクルの唇が触れた場所を思い浮かべ、リーンは身体がむずむずした。

体内で受け止めたサクルの情熱が溢れ出してくる感触に、寝台の上で膝を身体に寄せ、リーンは丸くなった。ギュッと自分を抱きしめ、サクルの気配を身体中で感じる。

幸福に包まれてリーンの心は甘い想いに浸っていたのだが……。


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