砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「そんなこと、わかっているわ。王の前ではちゃんと呼べばいいでしょう!? でも、ふたりのときは別。お前はわたくしの姉でもなんでもないのだから。まったく! ちゃっかり王に取り入って、お父様に娘だと言わせるなんて!」


レイラーは苛立たしそうに床を踏み鳴らしながら言う。

彼女は王の説明を一切信じていなかった。

王の前では殊勝に振る舞うが、リーンとふたりになると手の平を返したように尊大な態度を取る。

強気に出ればいいのだが、どうしても長年の習慣で、リーンには逆らえない。


「でも、大公さまがわたしに宛てて手紙をくださいました。長年、不自由な思いをさせてすまなかった、と。わたしは……」

「馬鹿をおっしゃい! お前は未婚の侍女が産んだ私生児のリーン。父の名を持たない、ただのシーリーンではないの。そんな娘を妻にはできないから、ちょうど空白の場所にお父様の名前を入れただけのこと。十歳の子どもにでもわかることだわ」


まるで聞き入れようとしないレイラーを見つめ、リーンはため息をつく。



レイラーはアミーンと逃げたが、サクルの回した兵士に捕まり、ふたりともこの砂漠の宮殿に囚われた。

当初、自分はアミーンの妻となったので王とは会えない、と言い張ったらしい。

ところが、一度、王と対面した途端、コロッと証言を変えたという。

実はアミーンとはなんの関係もない。顔も知らない王との結婚が恐ろしくなり、アミーンに嘘をつき、逃げる手助けをしてもらっただけ、と言い始めた。

バスィールとの関係もあり、王女のレイラーは宮殿内に一室が与えられたが、アミーンは別だ。石造りの地下牢に閉じ込められ、罪人同様の扱いをされていた。

そして、サクルがアミーンに問い質したところ――。


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