砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
「ああ、やはり、このほうが寝心地が良いな」


サクルはリーンの膝に頭を乗せ、目を閉じて言う。  


「あの……陛下。お休みになられるのでしたら、寝台を用意させますから」


そこは“砂漠の宮殿”の中二階、海の向こうから運ばせた涼しげな色のタイルに彩られた部屋だった。

宮殿から円形に突き出しており、三方に広大な砂漠の全景が広がる。その視界は、まるで砂漠の上に浮かんでいるような錯覚を部屋の人間に与えた。

砂漠を身近に感じられる上に、厳しい陽射しが凌げる、そして風の通りも良い。サクルにとってお気に入りの場所だ。

そしてここ最近は、妻のリーンを伴い、中央に敷かれたシルク織の絨緞の上でまどろむのが彼の日課となっていた。


「それは、人払いをして欲しいということか?」


リーンの膝に寝転がったまま、サクルは目を開けて尋ねる。

最初は仮眠用の寝台を用意させていたが、それではどうも楽しくない。適当に転がり、手を伸ばしてリーンに触れることが楽しみなのだ。

侍女たちは中二階の部屋の入り口を取り囲むように座っている。

衛兵は階段の下におり、男たちは王命以外では階段を上がることも禁じられていた。唯一の例外は、サクルの異母兄カリム・アリーくらいか。


「最初のときも……わたし、知りませんでした。アリーどのとマルヤムどのに聞かれていたなんて」


リーンは頬を染めていまだに浴室で妻となったときのことを言う。


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